中国の同意を得て米国が行う予防戦争

対北攻撃のシナリオ 中国の同意を得て米国が行う「予防戦争」の可能性高い 東京国際大学教授・村井友秀


http://www.sankei.com/smp/column/news/171121/clm1711210006-s1.html


【内容】

トランプ米大統領は韓国国会で「北朝鮮カルト教団に支配された地獄だ」と演説した。しかし、北朝鮮の指導者は、国民の支持がない政権を存続させるために、あらゆる手を使って制裁を逃れる合理的なプレーヤーである。

国際社会が要求するように、北朝鮮を平和で民主的な国家にすれば国民の支持がない金王朝は倒れる。米国や中国の指導者は政権の利益を最大化するように合理的に行動している。プレーヤーが合理的に行動すれば国際関係の理論が適用できる。

≪中国同意で実行される予防戦争≫

 国際関係には関係国の力関係が変化するときに戦争が起こるとするパワーシフト理論という戦争理論がある。この理論によれば戦争は、急速に力をつけつつある危険な弱国に脅威を感じた強国が予防的に弱国を攻撃する「予防戦争」と、弱国が力をつけて従来の強国よりも強くなったとき、獲得した優位な地位を固めるために相対的に弱くなった従来の強国を攻撃する「機会主義的戦争」がある。いずれにしても強い方が戦争を始める。

 北朝鮮は現在も将来も米国を凌駕(りょうが)する軍事大国になる可能性はなく、予防戦争や機会主義的戦争のチャンスはない。しかし、米国が北朝鮮核兵器やミサイルが深刻な脅威になると本気で認識すれば、弱い北朝鮮に対して予防戦争を実行する可能性はある。

 ただし、米朝戦争による米国の利益とコストを勘案すれば、数万人から数十万人の死者が予想される大規模な戦争は選択肢にならない。また、米国にとって最大のリスクは中国の参戦である。朝鮮半島に米中戦争のコストを上回る利益はない。

 他方、国際関係には弱国の側が戦争を始める「デッドロック」という理論がある。強国に圧迫された弱国がじり貧になり生き残れないと思ったときに、一か八か開戦するという理論である。

 今のところ、北朝鮮を守ろうとする中国の意志は固く、北朝鮮は中国の支援を当てにすることができ、経済制裁による自滅を心配する必要がない。ゆえに北朝鮮デッドロックに陥る可能性は低い。従って、考えられる米朝間の戦争は、中国の同意を得た上で米国が行う予防戦争の可能性が高い。

金正恩氏の核放棄は期待できず≫

 中国の北朝鮮に対する戦略目標は、(1)反米親中の北朝鮮を守る(2)米国と戦争しない、という2つである。米国の北朝鮮をめぐる戦略目標は、(1)北朝鮮核兵器と長距離弾道ミサイルを放棄させる(2)中国と戦争しない、という2つである。

従って、両国の戦略目標を達成するためには、北朝鮮核兵器と長距離弾道ミサイルの開発を放棄する反米親中国家になればよいのである。

 金正恩委員長は核・長距離ミサイル開発を放棄できるか。核兵器がない北朝鮮東北アジアの貧しい小国にすぎず世界は北朝鮮を無視するだろう。近い将来、50倍の経済力があり近代化した軍事力を持つ韓国に吸収される可能性も高い。北朝鮮が韓国に吸収されれば金王朝は滅びる。北朝鮮が韓国よりも優位に立っているのは核兵器だけであり、核兵器北朝鮮が持つ唯一の外交カードである。ゆえに金正恩氏に政策変更を期待するのは無理である。

≪新政権樹立で達成される目標≫

 政策を変えるためには指導者を代えることが近道であるが、話し合いで金正恩氏を排除することは難しく、実力行使に頼らざるを得ない。実力行使の問題点はコストである。もし、大規模な戦争が発生すれば核兵器が使われなくても犠牲者の数が数万人を超える可能性がある。コストを最小限に抑えた実力行使とは「戦争が始まる前に戦争を終える」戦略である。また、いずれの作戦も米中合意の下で実行されることになる。

 すなわち、(1)(米中の工作による)金王朝関係者による「宮廷クーデター」で金正恩氏を排除する。新独裁政権金正恩氏を非難して核・ミサイル政策を変更する(2)(中国が使嗾(しそう)して)北朝鮮軍内の親中派によるクーデターで金正恩氏を排除する。親中軍事政権が政策を変更する(3)米軍による特殊作戦(ターゲットキリング)によって金正恩氏を排除する。ただし、混乱を最小限に抑えるために北朝鮮の権力共同体は温存し、米中が黙認する労働党と人民軍による新独裁政権が政策を変更する。さらに、特殊作戦直後に米韓軍と中国軍北朝鮮に展開し治安を維持する。中国軍は「中朝相互援助条約」を口実に進駐する。

 北朝鮮軍幹部は米軍との戦争に勝ち目がないことを熟知しており、生き残るためには米軍と戦争するよりも金正恩政権を倒す方を選び米軍に抵抗しないだろう。いずれの場合でも金正恩氏に核ミサイルを発射するチャンスはない。

 金正恩政権が倒れ、核兵器と長距離弾道ミサイルを放棄する新しい政権が成立すれば、米国は戦略目標を達成する。中国もより従順な政権が誕生すれば、朝鮮半島に対する影響力を強化することができ、朝鮮半島は安定する。(東京国際大学教授・村井友秀 むらいともひで)




【感想】

(1)(2)のクーデター、(3)の斬首作戦は、成功すれば、いずれの方法であっても民間人の犠牲者は少なくて済む。しかし、(1)(2)のクーデターは決行日まで秘密を漏洩させないことが極めて困難である。1人でも密告者が出ると、関係者全員の一族郎党処刑となる恐怖の密告社会が障壁となる。(3)の斬首作戦を決断する可能性はあると思うが、万一失敗した場合に、ソウルなどで多数の民間人が犠牲になり、先に手を出したアメリカに非難が集中して、トランプ政権の維持が困難になる。更には、上記では扱われなかったが、(4)の可能性として、北朝鮮国連決議違反の挑発に対して、アメリカによる全面予防攻撃(一種の全面先制攻撃)も考えられると思う。


いずれのケースであったとしても、もし米朝戦争が勃発する場合には、内的な目的は、清平を破壊するための戦争なので、韓国側に被害が出る展開になると感じている。



by ロード



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