INF条約破棄は核戦争に対する抑止力向上

INF条約破棄が日本核武装の引き金に 露で警戒論 遠藤良介

https://special.sankei.com/f/international/article/20181112/0001.html?_ga=2.201574101.578160406.1541871441-265623317.1434456729

トランプ米大統領が、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄すると表明した。米国は、ロシアによる条約違反が破棄の理由だと説明。実際には、中国などがこの条約に縛られず、INFを増強してきたことに対処する狙いがあると考えられている。ロシアでは、INF条約の破棄によって世界の核管理体制に風穴が開き、日本や韓国が核武装に向かうとの警戒論も出ている。(前モスクワ支局長 遠藤良介)

折り合いつかぬ米露
 INF条約は、東西冷戦末期の1987年に米国と旧ソ連が締結。射程500~5500キロの地上発射型の弾道・巡航ミサイルについて、開発と配備を禁止した。特定の核戦力を全廃するとした条約は初めてで、軍縮への歴史的な転機となった。条約は、核管理体制の「礎石」ともされてきた。

 トランプ政権は、ロシアが新型の地上発射型巡航ミサイル「SSC8」(露側呼称・9M729)を配備するなど、INF条約に違反していることが条約破棄の理由だとしている。

 ロシアは、「SSC8」はINF条約が禁じている射程距離を想定していないなどと反論。逆に、米国が欧州に配備するミサイル防衛(MD)システムや、米軍の無人攻撃機プレデター」などを「条約違反だ」と問題視し、折り合いはつきそうにない。

「影の主役」は中国か
 米国と同様にロシアでも、INF条約破棄をめぐる「影の主役」は中国をはじめとする第三国だ-との報道が目立つ。

 「INF条約が破棄され、ロシアが自国西部に中距離ミサイルを配備すれば、欧州における北大西洋条約機構NATO)の通常戦力での優位は無に帰する」

 露有力経済誌のエクスペルトはこう述べ、米国がINF条約破棄によって対露関係で得るメリットはないと指摘。米国が条約破棄で念頭に置いているのは「第1に中国」であり、さらに「北朝鮮やイランだ」と見る。

 同誌によれば、中国はINF条約が対象とする中距離ミサイルを2350発、北朝鮮は420発、イランは330発保有している。「中国の(中距離対艦ミサイル)東風21は、太平洋のどこでも米空母を撃沈することができる」とされる。

 INF条約破棄後の米国は、中距離ミサイルをグアムや沖縄、韓国に配備して対抗するのではないか。エクスペルトはこんな見通しを示した。

「新START」も延長困難?
 INF条約の破棄は、米ソという2つの超大国の合意で核戦力を管理できた時代が終焉し、中国などを含む多国間の軍縮枠組みが求められている実態を象徴している。

 米露間では、戦略核弾頭や大陸間弾道ミサイルICBM)などを制限する新戦略兵器削減条約(新START)が2021年で失効する。米露はこの条約をめぐっても双方の「違反」を非難し合っており、新STARTも延長されない可能性が高い。

 こうした情勢を受け、露有力週刊誌のプロフィリは「核不拡散体制そのものが深刻な浸食にさらされている。近い将来、核兵器保有する国は増えるだろう」と論じた。

 「核不拡散体制」の基軸を成す核不拡散条約(NPT、1970年発効)は、核保有を5カ国(米露英仏中)に限って拡散させないと定め、核保有国には軍縮の義務を課した。

 条約に加盟していないインドやパキスタンが核を保有し、北朝鮮も核開発を進めている状況で、NPTはかなり前から揺らいでいる。ここにきて米露がINF条約や新STARTの足かせを外せば、それは決定的になる。

日韓豪が核保有と予測
 「次の数十年間で『核保有国クラブ』に新たなメンバーが加わるのは不可避だろう。新たな核保有国となるのは、パトロン(保護者)の『核の傘』が開かない時に備え、自国の安全を自ら保障しようと考える技術力のある国だ」

 プロフィリはこう指摘し、太平洋地域では日本と韓国、オーストラリアが核を保有する可能性があると予測した。

 中国の脅威にさらされている日本は、米国の同盟国という立場で、INF条約の破棄方針を冷静に受け止める必要がある。同時に、ことロシアとの北方領土交渉という点では、状況が厳しくなることを覚悟せねばならない。

 ロシアは伝統的に「米国の同盟国」というプリズムを通して日本を見るが、近年のプーチン露政権はその傾向をいっそう強めている。プーチン大統領は、北方領土の「引き渡し」(返還)に応じられない大きな理由として、「現地に米軍基地が置かれる恐れがある」と一度ならず述べている。

 日本が導入する地上配備型のミサイル迎撃システム「イージス・アショア」など、米国のミサイル防衛(MD)システムにもロシアの反発は強い。

 日本は「MDが対象とするのはロシアがINF条約で保有していない中距離ミサイルだ。米国を照準としている大陸間弾道ミサイルICBM)などの戦略兵器は迎撃できない」などと説明してきた。

 INF条約が破棄された場合には、こうした論法も使えなくなる。それどころか、ロシアが実際にINFを日本に向けて配備することも想定しておかねばなるまい。






【感想】

米ソ冷戦時代に、最も破壊力の大きなICBM、秘匿性の高いSLBM、多彩な戦略的柔軟性に富む戦略爆撃機を除外する中距離核戦力(INF)全廃条約が締結された。当時としては、実質的に核戦力を低下させず、核軍縮の成果を誇示できた。21世紀になり、当該条約に拘束されない国々、すなはち中国・北朝鮮・イラン等が、制約なく中距離核戦力を増強できた。米軍がICBMSLBMで対抗するには費用対効果が悪く、戦略的融通性が低くなるためトランプ大統領は破棄に踏み切った。一部の論客には、INF条約破棄が核戦争の危機を高めたと的外れな論評する者もいる。そもそも、核不拡散条約によるNPT体制が揺らいで骨抜きになり、核使用のハードルが低くなった核兵器を中国・北朝鮮・イラン等の国が保有するようになってしまったこと自体が核戦争の危機なのである。それらの国がNPT体制を遵守しようとする意識が薄く、こちら側が有効な対抗手段を持たないと、更に核戦争勃発の危険性は高まる。この意味で、トランプ大統領によるINF条約破棄は、核戦争を抑止するための効果を高めている。




by ロード



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