サウジの少女亡命から想いを巡らす

【中東ウオッチ】18歳サウジ女性の反乱 カナダの亡命受け入れが映すもの

https://www.sankei.com/smp/premium/news/190205/prm1902050001-s1.html

サウジアラビアの18歳の女性が1月、タイの空港で籠城して亡命を求め、カナダへの移住を果たした。ツイッターで自由を求める女性を欧米のメディアが大きく伝え、サウジの閉鎖的な人権状況が改めて注目される事件となった。トルコで昨年10月に起きた反体制記者の殺害事件では国連関係者も調査に乗り出す見通しで、人権弾圧をめぐるサウジへの国際的な批判はなお続きそうだ。
(カイロ 佐藤貴生)

■決死の逃避行
 「バンコクからサウジに連れ戻されそう」「(サウジに帰国したら)家族に殺される」

サウジ人女性のラハフ・モハメドさん(18)はタイ・バンコクの空港に到着した1月5日以降、乗り換え客のためのホテルに立てこもり、ツイッターに亡命を求める書き込みや動画を次々と投稿した。
 モハメドさんは旅行先のクウェートで、同行していた家族の目を盗んで飛行機に乗り、タイ経由でオーストラリアへの入国を計画。しかし、タイに着陸するとサウジの外交官が空港に来ており、旅券を取り上げられ行き場を失ったという。
 欧米の主要メディアは書き込みに基づき、事態の推移を刻一刻と伝えた。その結果、国連難民高等弁務官事務所UNHCR)が受け入れ先の打診に動き、モハメドさんは亡命を認めたカナダに12日に入国した。

サウジの女性は「奴隷のように扱われている」というモハメドさんは、サウジで行われている「後見制度」を厳しく批判した。女性が海外旅行や結婚、就職などをする際に夫や親類ら男性の「後見人」の許可を必要とするシステムで、女性は男性により守られるべき対象だとみるイスラムの教義が背景にある。
 モハメドさんは家族が「個人旅行は許可していない」とサウジ政府に告げたとみている。これまでも家族に軟禁状態にされたり、母親らに暴力をふるわれたりしたという。タイでの籠城中には、メディアの取材に「イスラム教の信仰は捨てた」と話した。サウジで棄教は死刑に相当する重罪だ。

■強権統治の弱点
 サウジの女性の間では、後見制度など男女の不平等への不満が高まっているといわれる。2017年4月にも、別のサウジ人女性がフィリピンの空港で本国への送還を拒否し、テープで口や手足を縛られ、助けを求めて叫びながら連行される事件があった。
 サウジ政府は今回の事件について公にコメントしていないもようだ。ただ、個人がインターネットで窮状を訴えて国連機関が動き、亡命が認められる時代となり、サウジのような欧米とかけ離れた価値観を持つ国には脅威と映っているに違いない。

カナダとサウジの関係もいっそう冷え込みそうだ。トルドー首相はモハメドさんを受け入れる際、「カナダは人権や女性の権利の擁護がいかに重要かを理解している」と述べた。カナダは昨夏、サウジ政府に獄中にいる人権活動家の釈放を要求。対するサウジはカナダとの新たな貿易を凍結する報復措置を取り、以前から対立が深まっていた。

■友好の裏で牽制?
 モハメドさん亡命事件に続いて、サウジの反体制記者、ジャマル・カショギ氏が在トルコのサウジ総領事館で殺害された事件でも新たな進展があった。国連のカラマード特別報告者が1月下旬、トルコを訪れて「独立した国際的な調査」を行う意向を示したのだ。

調査には科学捜査などの専門家3人も同行し、結果は6月に国連人権理事会で報告される見通しで、サウジ政府を批判する指摘が出る可能性もありそうだ。
 こうした厳しい情勢の中、サウジ政府が弾道ミサイルの開発計画を進めているという不穏な観測が浮上した。1月23日付の米紙ワシントン・ポスト(電子版)は、衛星写真を見た複数の専門家が、首都リヤド南西部に弾道ミサイルの製造工場を建設している疑いがあるとの見方を示したと報じた。

弾道ミサイルは核爆弾の運搬手段としても使われる。注目すべきは、施設の形状からみて中国が協力している可能性があるという専門家の指摘だ。
 サウジは宿敵イランの核兵器開発をにらみ、米国に核技術の供与を求めてきたとされる。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は昨年3月、「イランが核爆弾を開発したら、すぐに追随する」と述べるなど、核保有への熱意を隠していない。
 ただ、中東にはイランと鋭く対立している事実上の核保有イスラエルもあり、これまでの米政権は中東での核開発競争が本格化しかねない-との懸念から、サウジへの技術供与を避けてきたといわれる。

中国の支援が事実とすれば、カショギ氏の殺害事件後、トランプ米政権を最大の後ろ盾としてきたサウジ政府が軍事面での米国の協力に不満を示し、揺さぶりをかける狙いもちらつく。カショギ氏の殺害を指示したとも指摘されて国際的非難を浴びたムハンマド皇太子が、懲りずに強硬な外交を展開する見通しも強まる。
 イエメン内戦介入や国内の有力王子・富豪の一斉拘束などに影響力を発揮したとされる「皇太子の暴走」は止まるのか。サウジが女性の車の運転解禁に踏み切り、皇太子が「改革の旗手」ともてはやされたのは昨年6月のことだが、いまや遠い昔のように感じられる。








【感想】

今までイスラム世界の内情は閉ざされ、外部に漏れなかった。昨年のカショギ氏殺害事件でサウジアラビアの人権弾圧が世界に知れ渡った。今回の亡命事件を読むと心苦しくなる。本来なら、最も信頼し心許せるはずの家族から、帰国すれば殺されると怯えていた。サウジアラビアではイスラム教の棄教は死刑に相当する重罪だという。棄教の自由がないことは、信教の自由がないことになる。これでは人間の尊厳性は保証されない。18才の少女が自由を求めて亡命を希望し、国家権力に抗ってSNSで発信を続け、カナダ亡命を勝ち取り、サウジ社会に衝撃を与えた。国家・文化・言語・宗教・社会制度に関わらず、基本的人権は普遍的な真理である。新疆ウイグル自治区北朝鮮ベネズエラサウジアラビアなどで苦しむ人に心だけでも寄り添いたい。今回の少女亡命が蟻の一穴となり、閉鎖社会が解放される日が来ることを望む。






by ロード




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